seminar 電子版プレミアムセミナー

カルロス・ゴーン氏
「すべての枠を超える生き方」

 4月17日、東京都千代田区の一橋講堂で「日経電子版ビジネスセミナー」として、日産自動車のカルロス・ゴーン会長が登壇しました。日本経済新聞朝刊に2017年1月から1ヵ月間掲載された「私の履歴書」をベースにした著書「カルロス・ゴーン 国境、組織、すべての枠を超える生き方」にて紹介した、仕事への向き合い方や私生活との両立について語るとともに、ビジネスパーソンに仕事への姿勢について熱く語りました。聞き手は、キャスターの小谷真生子さんです。 以下はセミナーの要約です。

グローバル企業の経営者として

カルロス・ゴーン氏

小谷氏:グローバルな経営者に求められる資質とは何ですか。ゴーンさんはどのようにその資質を培ったのですか。

ゴーン氏:一言でいうと、『実績を上げる力』です。問題解決能力、つまり結果を出す能力です。ビジネスリーダーは普段から試されています。例えば、厳しいタスクを与えられることで試される。そしてそのタスクを解消すると、さらに厳しいタスクが課せられる。そこから徐々にリーダーとして育っていくのです。
 では、どうやってリーダーを育てるのか。まず、意欲、モチベーションのある人、何かをやりたいと思っている人を選抜します。そして、選抜した人を徐々に実績を上げる環境に置きます。実績を上げれば、そこからさらにハードルを上げる。そしてまたタスクを解消できればさらにハードルを上げます。
 実を言うと、それが私の育てられ方だったのです。私自身、数多くの厳しい使命を与えられた。私も苦労しました。みなさん、苦労すべきだと思うのです。苦労を通じて学びを得るし、実績を上げれば自信も付きます。「もっとできる」という自信が沸く、さらなる挑戦をする、そして次の挑戦で苦労して自問自答しながら成長していくのです。

小谷氏:ゴーンさんは20代で仏タイヤ大手のミシュランに入社、大規模な労働争議への対応などを経験しながら結果を出しました。これは誰もが経験できることではないですよね。

ゴーン氏:その通りですが、必ずしも珍しいことではありません。でもたいていの企業は若い人が失敗するのをおそれてやりたがらない。任される若い人も失敗を恐れてしまう。私も失敗するかもしれないと思っていましたし、不安でした。ただ、だからこそ全力を尽くすのです。本当に失敗をおそれるなら、全力を尽くして、創意工夫して、問題にコミットしていく。そこから、若い人たちが自信を持ち、人材が育つのです。
日本に欠けているのは、一部の人たちにすらチャンスを与えていない。そうなると、リーダーが必要なときに準備ができている人がいないことになります。生まれ持ってのリーダーはいません。リーダーは育てなくてはならないのです。ルノー、日産、三菱自動車のアライアンス、約45万の社員の中からリーダー候補のリストを作れと言われたら何人になると思いますか?もう本当にわずかになるでしょう。

小谷氏:女性の雇用がなぜ日本に重要なのでしょうか。

ゴーン氏:優秀な女性はたくさんいますし、チャンスが公平でないと優秀かどうかは分かりません。もったいないですよ。才能豊かな女性を使わないと50%を使っていないことになります。それに、ダイバーシティ(多様性)があるから、よりよい決定ができるのです。男女は好みが違うので、優先順位も違う。そもそもお客さんは男女を中心に構成されているわけで、企業が男性の目線だけで決めると、それは最善の決定をしていないことになります。例えば、物事を決める際、男性が決めるのが3分の1、女性が3分の1、あとは男女そろって決めているとします。男女そろって、というのは女性が決めているということですよね。男性がパートナーを幸せにするために女性の意見を尊重しているわけです。ビジネスで重要なのは、このような事実を考慮することです。
 多様性は強みだと思います。話は変わりますが、日産とルノーは文化の違いがあり、ミーティングの仕方も違います。フランス人のミーティングはずっと上司がしゃべっている。日本は部下がずっとしゃべっている。今の日産はどうなったと思いますか?みんな話します。違うスタンスの人をみると姿勢が変わり、バランスがとれるようになるのです。

仕事の仕方とモチベーション

小谷氏:日産、ルノー、三菱自動車での仕事をどう整理しているのですか。

ゴーン氏:それぞれ同じ役割ではないし、仕事の性質が違います。17年間、日産のヘッドでしたが2017年4月にCEO(最高経営責任者)職を西川(廣人)さんに渡して会長になりました。なので日常のオペレーションには関わっていません。三菱自動車では会長として助言はしますが、社長の益子(修)さんが決定します。一方でルノーではCEOでもあり、関与は深い。私は機能ごとに時間を分けています。よくないのは、すべての仕事を同じようにこなすことです。
朝型なので、目覚めると、静けさのなかで座ってじっと考える時間を設けています。散歩でもなんでもいいと思います。そこで準備して、頭の中を整理すれば、3時間仕事したのと同じです。夜型の人もいるでしょうから、家に帰ってからやる人もいるかもしれないですが、1日のうちにやっておかないといけないと思います。

小谷氏:難しい判断を迫られた際、どうやって決断するのですか。

ゴーン氏:合理的に分析します。私の信念は『解決できない問題はない』です。解決できない問題というのは、十分考えきれなかっただけなのです。時間を十分に使って、一人ではなく、ほかの人も交えて分析する。私が気付かない解決案をほかの人が持ってくることだってあります。

小谷氏:仕事のモチベーションを維持するにはどうしたらいいのでしょうか。

ゴーン氏:1つは、常に学習することが大切です。仕事においても学び続ける。ベストなのは毎日1つずつ新しいことを学ぶことです。その道のエキスパート、すばらしいアーティスト、職人、そして優れた経営者は実践しています。学習する能力こそがモチベーションが続くことの源泉なのです。
 2つ目に、仕事に価値をみいだす。自分がいかに組織にとって価値のある人間かを見出すのがきわめて大切です。学習する能力は大事だが、それだけはなく、目的によってモチベーションは作られます。
 例えば、日産・ルノーで、低価格車を開発している。インドでは1台40万円の自動車を開発している。技術者にモチベーションをどう持たせたのかというと、「このクルマが成功したら、1億人の人生が変わる」ということを伝えました。移動や輸送手段のない山奥に住む人が、車を購入して自分でメンテナンスできれば、大学に行ける、仕事もできる、転職もできるし昇格もできます。社会的な目的、崇高な目的があればモチベーションになるのです。

プライベートとこれからについて

カルロス・ゴーン氏

小谷氏:仕事とプライベートのバランスをどう取っていますか。著書の中では早起きで出社前にも仕事をされていて、超過密なスケジュール。でも大丈夫とあります。

ゴーン氏:バランスをとるのは非常に難しいですよ。まず、健康でなければ仕事ができないですよね。出張は多いし、時差ボケもしてしまう、それでも部下は私の決断を求めます。それにはまず健康でなければ無理です。
ですからワークライフバランスの基本として、まずは自らの健康に気をつけないといけない。運動をして、よく食べて、睡眠もしっかり取るのが大事です。運動は1週間に1回よりも毎日15分やったほうがいいですよ。徐々に毎日やることが大事で、短時間でも特に柔軟性を保ち、筋力を発達させるのです。
 バランスといえば、何事にも熱意をもって取り組むことで仕事と家庭の両立はできるはずです。両方に熱意を持つ。私は仕事をしていましたが、同時に子供の教育にも熱心でした。子供と過ごす時間、彼らと話をしていく時間を作りました。教えるということに関心があったからです。

小谷氏:子供のころの夢は?また、将来どこでなにをしていると思いますか。

ゴーン氏:こども時代は教師になりたかった。歴史と地理が大好きだったが、数学が得意で工学部にいってしまった。10年後何をしているか?正直いって健康であればいい。 私自身は自分のことを『モバイル』だと思っているので一箇所にとどまるようなことはないだろう。

略歴

カルロス・ゴーン氏

(日産自動車株式会社 取締役会長)

1954年3月9日 ブラジル生まれ。ポルトガル語、アラビア語、英語、フランス語を操る。
現在、日産自動車株式会社の取締役会長を務める。
1999年6月に日産の最高執行責任者に就任。その後2001年6月に社長兼最高経営責任者に就任し、2008年より同社の取締役会長も兼任。日産リバイバルプランにおいては中心的な役割を担い、僅か2年で倒産の危機に瀕していた会社を黒字転換させた。そして2017年4月、社長兼最高経営責任者を西川廣人氏に引き継いだ。
2005年5月にルノーの社長兼最高経営責任者に就任し、2009年より同社の取締役会長も兼任。さらに2016年12月に、三菱自動車の取締役会長に就任した。
また、世界最大規模の自動車グループである、ルノー・日産自動車・三菱自動車のアライアンスの会長兼最高経営責任者も務めている。