ネットに「頼れる情報基地」
日本経済新聞社が3月23日に創刊する「日本経済新聞電子版」(Web刊)は、インターネット時代にふさわしい報道のあり方を拓(ひら)く。情報の信頼性を基盤としたうえで、ニュースの編集から提供の方法までを改めて見直し、読者に有益で利便性の高い新しいメディアの姿を追求していく。
「ネット革命にどう向き合うか」。この10年余り、世界中の新聞社はこんな自問を繰り返してきた。情報の流通コストの劇的な低下はメディア企業に読者との関係の見直しを迫るからだ。
日経が電子版の検討に着手したのは4年前。開発作業に時間がかかったのには理由がある。ネット上での「情報量の爆発」に対して、紙の情報を単に電子的に流すだけでは足りない。デジタル技術の利便性を備え、なおかつ独自の価値を加えることはできないか――それは結局、新聞のあり方を丸ごと見直す作業になった。
たとえば編集局。朝刊、夕刊、1日2回の締め切り時間に向けエネルギーを集中するのが伝統的な流儀だった。記者はぎりぎりまで裏づけ取材をする。編集者は多くの記事の中から取捨選択。翌朝、紙を手にするであろう読者を想定しながら、深夜まで作業は進む。
電子版の呼称「Web刊」には「デジタル時代の編集力」を追求する決意を込めている。即時性のニーズに24時間応えながら、情報の垂れ流しではなく、関連記事や解説を加える。社内で集めた記事だけでなく、テレビ映像や内外の一流メディアの情報も活用する。ネット用語でいう「アグリゲーション(集約)機能」も併せ持つのが新しい編集局の姿だ。
ネット時代は口コミのような断片情報が重要だ。大量の情報の洪水から最終的に選ぶのは読者だという考え方は根強くある。だが、情報量爆発の時代だからこそ、逆に編集者の目で選んだ信頼性の高い情報ニーズもある。そこに報道機関の使命があるはずだ。
「輪転機とトラックの台数の戦いからコンテンツ競争へと移る。素晴らしい変化だ」。1990年代半ば、ニューヨーク・タイムズ紙の発行人、サルツバーガー氏は語り、電子事業を推進した。しかし、広告モデルに依存した事業の不振もあって、今年に入り一部有料化すると宣言した。
NYタイムズの方向転換は「ネットの情報=タダ」の時代が終わるという単純な話ではない。90年代以降、メディアの変革を主導したのはプラットフォーム技術の革新だった。今、コンテンツ側から新しい風が吹き始めた点に意味がある。メディア大競争は次のステージに移る予感が漂う。
「電子版」は、有料と無料の世界を両立させたメディアでありたい。誰もが容易に入手できる一般的な情報が無料になる流れは止まらない。ブログなどソーシャルメディアはその存在感をさらに高めていく。だが、独自の記事、専門的な解説、読者のためにカスタマイズされた情報は輝きを放つだろう。
報道サイトとしての質を磨きながら、オープンな世界とつながりを持つコミュニティーを目指す。時間がかかるのは覚悟の上だ。創刊はその第一歩にすぎない。
(デジタル編成局長 野村裕知)