interview インタビュー

糸井重里氏
私の電子版利用術

 日本経済新聞 電子版を使う人が増えています。有料会員数は国内の有料報道サイトで初めて50万人を超えました。コピーライターとして数々の話題作を手がけ、先日には自ら経営する「ほぼ日」を上場させた糸井重里さんもその一人です。時代の流れを読む達人である糸井さんに、電子版の活用術を聞いてみました。

「冷静に俯瞰ができる。そういう点に好感を持っています。」

糸井重里氏

日経電子版を読み始めたのは実は最近で、「有料会員が50万人を超えた」というニュースを目にしたのがきっかけです。ぼくは常々「人が注目している場所には、まずは行ってみよう」と思っているんです。50万人と聞いて、びっくりして。

紙と電子版、両方のプランで申し込みました。「紙は読んでも読まなくても、とりあえずあればいいかな」くらいの気持ちでしたが、実は紙を結構、読んでいます。これには自分でも驚きました。

家では紙の新聞をざっと見ます。一面は自然に目につくので、一番後ろのページから。一定の速度でめくって見ますが、読みはしません。気になるところは折っておいて、後で読みます。紙だと広告や小さい記事でもぱっと目に入りますからね。ぼんやりと流し読みをして全体をつかみます。

外に出てからはスマートフォンで電子版を見ます。アプリは最初の画面に入っています。メールやツイッターなんかと同じ感覚で、気軽にニュースを眺めるのにちょうどいいんです。画面に漠然と表示して、その中でたまたま目にする、出会ったニュースを大事にしています。

「情報はタダ」と考える人は多いですが、電子版のアプリを触っていると「これなら払ってもいいんじゃないか」という感じがありましたね。端末の特徴を生かして、見せるべき情報をどんどん出す。でも出し過ぎず、見たい人はもっと見られる。独自の工夫が見られます。

糸井重里氏

僕は「ほぼ日刊イトイ新聞」というサイトを運営しています。新聞はいろんな情報を集めて、ショーウインドーのようにならべる場所だとの思いからです。限られたショーウインドーにどう情報を並べるか、その工夫がすごく難しいと思うんです。

情報収集については、実は、ぼくはなるべく遮断しているんです。目新しい情報って、ある種の意図があって、あおり立てる人がいて、広がっている。そういうことが、非常に多いんですね。そういったものに振り回されないよう、気を付けています。

ニュースで重要なのは、社会で起きていることのうち、最低限知るべきことを知ることができるということです。普通に生活していて、普通に入ってくる情報を自分の中にためていく。急いで「答え」を出すようなことはしません。マスメディアも友達も、情報源としては平等です。集めた情報同士で違いがあった場合は「宿題」として保留して、新しい情報が入ってくれば確かめる。

今の世の中を見ると、ニュースに振り回されているような人が多いように感じます。時事ネタを日々の話に盛り込んでいるから知的、というのはおかしな話だと思います。いちいちニュースに関するコメントは必要ないと考えています。世の中で起きていることはある程度の距離感をもって見ることが重要だと考えています。

そういう意味では日経の情報は、いわば方眼紙にひとつずつニュースがあるような状態。出っ張りがなく、冷静に俯瞰(ふかん)ができる。そういう点に好感を持っています。

「貴重な情報を権力者が独占している」と考える人はいますが、今の世の中はそうではないと思います。それは幻想です。(詩人・評論家の)吉本隆明さんから教わりました。「世の中のことはだいたい新聞に書いてある。問題は読み方。毎日読んでいると分かるようになる」と。

糸井重里氏

略歴

糸井 重里(いとい・しげさと)

1948年(昭23年)群馬県生まれ、68歳。法政大中退。71年、コピーライターとしてデビュー。98年にウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を創刊した。記事は無料で、広告は無し。かわりに独自開発した生活関連商品を販売する。主力の「ほぼ日手帳」は年60万部を発行。運営会社のほぼ日は2017年3月、東京証券取引所ジャスダック市場に上場した。